〈後継者に財産を移転する際の遺留分による制約〉
事例1においては、経営者Aが生前贈与や遺言によって後継者である長男Bに株式や事業用資産を譲渡しようとしても、長女C、次男Dがそれぞれ1/6ずつの遺留分を持つため、後継者Bに集中できる財産の限度は2/3となってしまい、これでは円滑な経営の承継が困難です。
また、仮に後継者BがA死亡前にAの後継者として指名され、Aに代わって会社の経営を実質上支えている場合には、そのBの貢献によって株式価値が上がっていることもあります。
事例2において仮にAの資産が株式のみであった場合には、もともとC及びDの遺留分はそれぞれ5000万円(3億円×1/6)であったのに対し、長男Bが後継者として努力したため、その遺留分はそれぞれ1億円(6億円×1/6)と増加しています。
たとえ、5年前に株式を全て後継者Bに対して生前贈与していたとしても、相続人に対する特別受益としての贈与は何年前のものでも遺留分算定基礎財産に算入され、特段の事情のない限り、遺留分減殺の対象となります(最高裁平成10年3月24日判決)。
また、遺留分算定基礎財産に加算される贈与財産の評価の基準時は相続開始時とされています(最高裁昭和51年3月18日判決)。
そのため、後継者Bに株式が生前贈与され、その株式の価値が後継者Bの貢献により上昇した場合であっても、遺留分の算定に際しては、後継者Bの貢献を考慮することなく、相続開始時点の上昇後の評価で計算されてしまうのです。
後継者Bとしてみては、自分の努力によって株式の価値を3億円から6億円に上げたにもかかわらず、そのうちの2億円は何ら努力していないC及びDに持っていかれてしまうこととなり、後継者Bの円滑な会社運営に支障をきたすだけでなく、当初からこのような事情を把握していた場合には後継者Bのモチベーションの低下あるいは、そもそも後継者となることすらためらってしまうおそれがあります。
このような遺留分の問題に関しては、後継者でない相続人がそれぞれ相続開始前に家庭裁判所に申し立て、遺留分放棄許可を受けることも可能です。
しかし各人がその手続を負担することや、全相続人について統一的な処理がなされる担保がなく、申立人ごとに許否の判断が分かれる可能性があるため、遺留分をめぐる紛争を必ず回避できるとは限りません。


