詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害すること(債権回収が困難になる等)を知りつつ自己の財産を逸出させた場合に、債権者が、その債務者の行為(詐害行為)を取り消して、逸出した財産を第三者(債務者と直接取引した者又は転得者)から取り戻す民法上の権利のことをいいます。
前述のように事業譲渡は、事業を売却することによって得られた金銭で債権者に弁済し、新たに会社の建て直しを図るためや、事業の存続、従業員を守るために用いられるのですが、この事業譲渡によって、財産が逸出し債権者が害される場合には、債権者から事業譲渡が詐害行為にあたるとして、詐害行為取消権を行使され、事業譲渡を取り消されるおそれがあります。
どのような場合に事業譲渡が詐害行為に当たるかの基準について、裁判所は、「目的や計算上の対価が相当であったとしても、営業譲渡当事者の通謀によりその対価が現実に債務者(譲渡会社)に入らないような場合は、右営業譲渡は詐害行為に該当するというべきである。
なぜなら、このような場合は、計算上、債務者の一般財産に変動がないとしても、有形資産が現実には減少し、他の債権者の債権回収を一層困難にするからである」(東京地判平成11年12月7日判時1710号125頁)としています。
つまり、事業譲渡の対象となる財産の対価が不当に低廉である場合、例えば、事業譲渡の対象として不動産を譲渡する際に、ほとんどただ同然で譲渡した場合には詐害行為と認定されやすいことは当然のこと、計算上の対価が相当であっても、事業譲渡の対価が現実に支払われない場合には詐害行為にあたるものといえます。
さらに、裁判所は、不動産を適正価格で売却し、現実に金銭を受領した場合であっても、不動産を消費しやすい金銭にかえるという売却行為を原則として詐害行為にあたるとし、例外的に相当の売却代金を有用の資に充てた場合には詐害行為にあたらないとしています(大判明治44年10月3日)。
せっかく会社再建や事業の存続、従業員を守るために事業を譲渡しても、詐害行為取消権の行使により、事業譲渡を取り消されてしまっては、目的を達成することができません。しかし、当該事業譲渡が詐害行為に当たるかどうかの判断は容易ではありません。
また、上記のように詐害行為に該当するような事業譲渡を行った場合、債権者が会社や、役員、支配株主に対して損害賠償請求をしてくるおそれもあります。
そのため、債務が超過しておりかつ債権者がいる状態で事業譲渡を行う際には、当該事業譲渡が詐害行為にあたるような事業譲渡ではないかどうかを法律の専門家である弁護士に相談することが望ましいと言えます。


