当サイト2でも述べましたように、事業譲渡はあくまで取引法上の行為であるため、事業譲渡がされても当然には譲渡会社の債務まで譲受会社が承継することにはなりません。
譲渡会社の債務を引き受けることが合意されていない限り、譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負わないことが原則なのです。
しかし、譲渡会社の債務について譲受会社が責任を負うかどうかを外から判断するのは困難です。
そこで、会社法では、取引の安全を図るべく後述の場合には、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の合意をしていなかったとしても譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負うと定めています。以下、どのような場合に責任を負うのかを説明します。
第1に、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。
これは、譲渡会社の債権者は、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、事業主の交代があったことを知らないか、あるいはこれを知っていたとしても、譲受会社による債務引受があったものと考える可能性が高く、そのような債権者の信頼を無視するわけにはいかないからです。
ここで、どのような場合に商号を続用したといえるのかについて、最高裁判所は、「有限会社米安商店」から営業を譲り受けた者が「合資会社新米安商店」の商号を使用したという事案において、「会社の種類を異にしかつ「新」の字句を附加したものであつて」旧商法26条の商号の続用にあたらないと判断しています(最判昭和38年3月1日)。
また、「株式会社藤和」と「株式会社藤和リフォーム」という商号については、「その主要な部分である「藤和」を共通にしていること、両者は「株式会社」という会社の種類も共通にしていること、特に遮断的字句が用いられているわけではないこと」を理由として、商号の続用を肯定した裁判例もあります(東京地判平成15年6月25日)。
これらの裁判例からは会社の種類が同じか、共通部分があるか、続用を遮断するような語句が使用されているかどうかが続用の判断基準となっているものと思われます。
このように商号が続用されたと判断されると、譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負うことになりますが、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社が譲渡会社の債務を負わない旨の登記をした場合や譲渡会社及び譲受会社から第三者に対して債務を負わない旨の通知をした場合には、商号が続用されていても譲受人は責任を負いません。
これらの場合には、債務の引き受けがなされていないことが明確であり、商号続用による誤認のおそれが少ないため、あえて債権者を保護する必要もないからです。
他方、譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも、譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は譲受会社に対して弁済の請求ができます。
ここで、債務を引き受ける旨の広告とは、「広告の中に必ずしも債務引受の文字を用いなくとも、広告の趣旨が、社会通念の上から見て、営業に因って生じた債務を引受けたものと債権者が一般に信ずるが如きものであると認められるようなものであれば足りる」(最高裁昭和29年10月7日判時36号17頁)と解されており、内容次第では挨拶状であっても上記広告に該当することもあります。
したがって、挨拶状等を出すときには上記広告に当たらないように表現に注意することが必要です。
なお、上記のように、譲受会社が譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合、事業の譲渡または広告ののち2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、譲渡会社の弁済責任は消滅します。


