事業譲渡の効力

手続要件等を満たし有効な事業譲渡がなされると、文字どおり譲渡会社から譲受会社に事業が譲渡され、譲受会社は事業を承継することになります。
そして、事業を構成する資産や権利が譲渡会社から譲受会社に移転することとなります。

もっとも、資産や権利が移転するだけでなく、事業譲渡によって両会社に特別の責任が生じることもあります。

そこで、以下では事業譲渡に伴って生じる責任について説明します。

譲渡会社・譲受会社の責任(競業避止義務)

事業が譲渡されると、譲渡会社は競業避止義務を負います。

この競業避止義務とは、事業が譲渡されると譲渡会社は、当事者の別段の合意がない限り、同一の市町村(東京都及び指定都市では区)の区域内及びこれに隣接する市町村の区域内においては、その事業を譲渡した日から20年間は、同一の事業を行うことができないというものです。

このような義務が定められた趣旨は、譲渡会社が事業を譲渡しておきながら、同種事業を再開し、譲渡した得意先と再び取引を始めるというような事態が生じると、譲受会社に予期せぬ損害を被らせることになり、事業譲渡の実効を失わせることにもなりかねないことから、そのような競業状態の発生を防ぐことにあります。

しかし、20年間も譲渡した事業と同一の事業を行ってはいけないとなると、例えば、金銭の画策のために一時的に事業を譲渡したけれど、会社が軌道に乗り金銭を工面できるようになったらまた同じ事業を展開するということができなくなってしまいます。

そこで、事業を譲渡するときに、20年という期間に躊躇を覚えるのであれば、相手方との話し合い次第では、期間を短くしたり、思い切って競業避止義務を負わないというようにもできます。

なぜなら、競業避止義務は、前述のようにあくまで当事者の別段の合意がない場合に20年という期間を定めるものですから、当事者の別段の合意がなされれば20年という期間には縛られないからです。

したがって、事業譲渡契約書を作成する際に、競業避止義務についてどのように定めれば会社の利益になるのかをよく検討する必要があります。

譲渡会社・譲受会社の責任(商号続用等による譲受会社の責任)

事業譲渡はあくまで取引法上の行為であるため、事業譲渡がされても当然には譲渡会社の債務まで譲受会社が承継することにはなりません。

譲渡会社の債務を引き受けることが合意されていない限り、譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負わないことが原則なのです。

しかし、譲渡会社の債務について譲受会社が責任を負うかどうかを外から判断するのは困難です。

そこで、会社法では、取引の安全を図るべく後述の場合には、譲受会社が譲渡会社の債務を引き受ける旨の合意をしていなかったとしても譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負うと定めています。

以下、どのような場合に責任を負うのかを説明します。

第1に、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負います。

これは、譲渡会社の債権者は、譲受会社が譲渡会社の商号を続用する場合には、事業主の交代があったことを知らないか、あるいはこれを知っていたとしても、譲受会社による債務引受があったものと考える可能性が高く、そのような債権者の信頼を無視するわけにはいかないからです。

ここで、どのような場合に商号を続用したといえるのかについて、最高裁判所は、「有限会社米安商店」から営業を譲り受けた者が「合資会社新米安商店」の商号を使用したという事案において、「会社の種類を異にしかつ「新」の字句を附加したものであつて」旧商法26条の商号の続用にあたらないと判断しています(最判昭和38年3月1日)。

また、「株式会社藤和」と「株式会社藤和リフォーム」という商号については、「その主要な部分である「藤和」を共通にしていること、両者は「株式会社」という会社の種類も共通にしていること、特に遮断的字句が用いられているわけではないこと」を理由として、商号の続用を肯定した裁判例もあります(東京地判平成15年6月25日)。

これらの裁判例からは会社の種類が同じか、共通部分があるか、続用を遮断するような語句が使用されているかどうかが続用の判断基準となっているものと思われます。

このように商号が続用されたと判断されると、譲受会社は譲渡会社の債務について責任を負うことになりますが、事業を譲り受けた後、遅滞なく、譲受会社が譲渡会社の債務を負わない旨の登記をした場合や譲渡会社及び譲受会社から第三者に対して債務を負わない旨の通知をした場合には、商号が続用されていても譲受人は責任を負いません。

これらの場合には、債務の引き受けがなされていないことが明確であり、商号続用による誤認のおそれが少ないため、あえて債権者を保護する必要もないからです。

他方、譲受会社が譲渡会社の商号を続用しない場合でも、譲渡会社の債務を引き受ける旨の広告をしたときは、譲渡会社の債権者は譲受会社に対して弁済の請求ができます。

ここで、債務を引き受ける旨の広告とは、「広告の中に必ずしも債務引受の文字を用いなくとも、広告の趣旨が、社会通念の上から見て、営業に因って生じた債務を引受けたものと債権者が一般に信ずるが如きものであると認められるようなものであれば足りる」(最高裁昭和29年10月7日判時36号17頁)と解されており、内容次第では挨拶状であっても上記広告に該当することもあります。

したがって、挨拶状等を出すときには上記広告に当たらないように表現に注意することが必要です。

なお、上記のように、譲受会社が譲渡会社の債務を弁済する責任を負う場合、事業の譲渡または広告ののち2年以内に請求または請求の予告をしない債権者に対しては、譲渡会社の弁済責任は消滅します。

詐害行為取消権

詐害行為取消権とは、債務者が債権者を害すること(債権回収が困難になる等)を知りつつ自己の財産を逸出させた場合に、債権者が、その債務者の行為(詐害行為)を取り消して、逸出した財産を第三者(債務者と直接取引した者又は転得者)から取り戻す民法上の権利のことをいいます。

前述のように事業譲渡は、事業を売却することによって得られた金銭で債権者に弁済し、新たに会社の建て直しを図るためや、事業の存続、従業員を守るために用いられるのですが、この事業譲渡によって、財産が逸出し債権者が害される場合には、債権者から事業譲渡が詐害行為にあたるとして、詐害行為取消権を行使され、事業譲渡を取り消されるおそれがあります。

どのような場合に事業譲渡が詐害行為に当たるかの基準について、裁判所は、「目的や計算上の対価が相当であったとしても、営業譲渡当事者の通謀によりその対価が現実に債務者(譲渡会社)に入らないような場合は、右営業譲渡は詐害行為に該当するというべきである。

なぜなら、このような場合は、計算上、債務者の一般財産に変動がないとしても、有形資産が現実には減少し、他の債権者の債権回収を一層困難にするからである」(東京地判平成11年12月7日判時1710号125頁)としています。

つまり、事業譲渡の対象となる財産の対価が不当に低廉である場合、例えば、事業譲渡の対象として不動産を譲渡する際に、ほとんどただ同然で譲渡した場合には詐害行為と認定されやすいことは当然のこと、計算上の対価が相当であっても、事業譲渡の対価が現実に支払われない場合には詐害行為にあたるものといえます。

さらに、裁判所は、不動産を適正価格で売却し、現実に金銭を受領した場合であっても、不動産を消費しやすい金銭にかえるという売却行為を原則として詐害行為にあたるとし、例外的に相当の売却代金を有用の資に充てた場合には詐害行為にあたらないとしています(大判明治44年10月3日)。

せっかく会社再建や事業の存続、従業員を守るために事業を譲渡しても、詐害行為取消権の行使により、事業譲渡を取り消されてしまっては、目的を達成することができません。しかし、当該事業譲渡が詐害行為に当たるかどうかの判断は容易ではありません。

また、上記のように詐害行為に該当するような事業譲渡を行った場合、債権者が会社や、役員、支配株主に対して損害賠償請求をしてくるおそれもあります。

そのため、債務が超過しておりかつ債権者がいる状態で事業譲渡を行う際には、当該事業譲渡が詐害行為にあたるような事業譲渡ではないかどうかを法律の専門家である弁護士に相談することが望ましいと言えます。

否認権

上記詐害行為取消権によく似た倒産法上の制度として否認権という制度があります。

否認権とは、債務者が、破産手続や会社更生手続等の倒産法上の手続開始決定前に債権者に損害を与えたり、一部の債権者だけを満足させたりするような行為をした場合にその行為の効力を否定することができる権利のことです。

具体的には、破産直前などに事業譲渡がされた場合、当該行為が否認権の対象となると破産管財人による否認権の行使によって、詐害行為取消権の行使と同様に、その事業譲渡を否認され、譲渡された資産を債務者会社に取り戻されてしまうといった事態が生じるのです。

そして、事業譲渡の際には不動産の譲渡を伴うことが多く、不動産は資産価値も高いことから、不動産の売却に対して否認権が行使されることが実務上も多々あります。

そこで、どのような場合に不動産の売却が否認権の対象となるのかが問題となります。

この点、不動産を不当に低廉な価額で売却したような場合には、否認権の対象となることに特に問題はありません。

これに対して、適正な価格での売却の場合は、否認権行使の要件として、条文上「当該行為の当時、対価として取得した金銭その他の財産について、隠匿等の処分をする意思を有していたこと」(破産法161条1項2号、会社更生法86条の2第1項2号等)が要求されているため、上記意思がない限り否認権の対象とはならないことになります。

いずれにせよ、倒産手続を検討しており、事業譲渡も行おうとするのであれば、後で管財人等と否認権でもめないためにも、詐害行為取消権と同様に事前に弁護士に相談することが望ましいといえます。

このように、事業譲渡の際には、詐害行為取消権だけでなく、場合によっては否認権についても気を付ける必要があるといえます。

もっとも、詐害行為取消権や否認権の行使によるリスクは、他で詳しく述べます破産手続、民事再生手続、会社更生手続内であれば回避することが可能です。法的手続内での事業譲渡であれば、詐害行為も否認もないからです。

したがって、事業譲渡を行う必要があるものの詐害行為取消権や否認権の行使が不安だという場合には、他で述べます法的整理手続の中で事業譲渡を行うことも一つの方法であるといえます。