会社分割が行われると、新たに設立する会社または既存の会社に、会社債権者の承諾なしに会社財産が承継されてしまうため、債権者の有する債権の回収可能性に重大な影響を与える可能性があることを説明しました。

このように、債権者は、会社分割により不利益を被るおそれがあるため、会社分割に際し、異議を述べる権利が認められています。
もっとも、異議を述べることのできる債権者は、以下の表に記載の債権者に限られており、全ての債権者が異議を述べられるわけではありません。

ポイントは、
(1)人的分割の場合は、分割会社の債権者に対し、債権者保護手続が必ず必要となるのに対し、
(2)物的分割の場合に債権者保護手続が必要となるのは、分割会社の債権者が、分割後、分割会社に債務全額の履行を請求できない場合に限られる

ということです。

異議を述べる権利を有する債権者に対する会社の対応

会社分割において、異議を述べることができる債権者が存在する場合、会社は次の事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別にこれを催告しなければなりません。
官報に公告を行っても、各債権者に対する催告を省略することができないことには、注意が必要です。
もっとも、分割会社は、官報による公告に加え、定款に定めた時事に関する事項を記載する日刊新聞紙または電子広告により公告することにより、知れている債権者に対する各別の催告を省略することが可能です。
しかし、不法行為により生じた債務の債権者に対しては、この方法によっても、各別の催告を省略することはできません。
分割会社が個別催告を怠った場合、催告を受けなかった分割会社の債権者は、分割計画または分割契約において債務を負担しない旨が定められた会社に対しても、その
会社が会社分割の効力が生ずる日に有した財産の価額を限度として、債務の履行を請求することができます。
〜官報公告及び催告事項〜
(1) 組織再編行為をする旨
(2) 他の組織再編当事会社の商号及び住所
(3) 当事会社の計算書類に関する事項
(4) 債権者が一定期間内(注:1ヶ月を下ることはできないとされています)に異議を述べることができる旨

公告・各別催告の効果

債権者が定められた期間内に異議を述べなかったときは、その債権者は会社分割を承認したものとみなされます。

従って、異議を述べなかった債権者は、分割無効の訴えを提起することができなくなります。

債権者が定められた期間内に異議を述べたときは、会社は、その債権者に対し、弁済、若しくは、相当の担保を提供し、または、その債権者に弁済を受けさせることを目的として信託会社等に相当の財産を提供しなければなりません。

この点は重要ですので、必ず押さえておいて下さい。

会社分割の方法により事業承継を行ったとしても、承継会社が分割会社が使用していた名称を継続して使用していた場合には、承継会社は分割会社が負担していた債務を負わなければならないとされた事例

平成20年6月10日、最高裁は、会社分割によりゴルフ場の事業を承継した会社が従前のゴルフクラブの名称を引き続き使用していた場合に、会社法22条1項の類推適用により「承継会社は分割会社が負担していた預託金返還義務を負うものというべき」と判断しました。

会社分割により事業の承継を行う場合に承継会社にどの債務を引き継がせるのかは、分割計画書(分割契約書)により定めることができます。

よって、上記事例において、分割計画書(分割契約書)に承継会社が預託金返還債務を引き継ぐと記載されていなければ、原則として、承継会社が分割会社の負担している預託金返還債務を負担することはありません。

では、なぜ最高裁は、承継会社が預託金返還義務を負うと判断したのでしょうか。

実は、本事例のポイントは、承継会社が「従前のゴルフクラブの名称を引き続き使用していた」という点にあります。

会社法22条1項は「事業を譲り受けた会社が、譲渡会社の商号を継続して使用する場合は、譲受会社は譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済しなければならないこと」を定めています。

本事例では、承継会社が従前のゴルフクラブの名称を引き続き使用していたため、事業譲渡における商号続用者の責任を定めた会社法22条1項の類推適用を根拠に、承継会社の責任が肯定されることになったのです。

会社分割による事業譲渡において、分割計画書(分割契約書)により承継会社に引き継がれる債務を限定しても、商号を継続使用する場合には、会社法22条1項の類推適用により、承継会社が分割会社が負担する債務を負うことがありますので、注意が必要です。