円滑な事業承継を目指すには、自社株式の集中あるいは分散防止を図る、さらには経営権を強化する必要がある場合もあり、そのためには会社法の制度を活用することも有効です。

株式の譲渡制限

定款で、株式を譲渡するには会社の承認を必要とすることにより、自社株式の分散を防ぐことができます。
新たにこの制度を導入するための定款変更には、株主総会の特殊決議(総株主の人数の半数以上で、かつ、総株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要となります。

相続人に対する売渡請求

株式の譲渡制限を行っても、相続や合併による取得には適用されませんので、相続などによる分散を防ぐため、定款を変更して、株式を相続した株主に対して会社がその売渡しを請求できるようにするという方法があります。

この定款変更には株主総会の特別決議(議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成)が必要で、売渡請求をする場合にも、その都度、特別決議が必要です。

また、経営者が死亡して自社株式を後継者が相続した場合にも、会社から売渡請求がなされる可能性があるので注意が必要です。

この制度を活用するには以下のような要件があります。

(1)請求期限:相続等があったことを知った日から1年以内。

(2)売買価格:株式の売買価格は当事者間の協議によりますが、協議が整わない場合、裁判所に売買価格決定の申立ができます。

ただし、申立は売渡請求の日から20日以内に行う必要があります。

(3)財源規制:剰余金分配可能額を超える金額での買取はできません。

種類株式

平成18年の会社法の制定により種類株式についても整備がなされ、様々な機能を有する種類株式の利用が可能となりました。ここでは、種類株式についてその機能を説明し、事業承継における活用方法を説明します。

配当優先の議決権制限株式

剰余金の配当を普通株式に優先して支払う代わりに議決権が制限される株式をいいます。
法形式上は剰余金配当優先株式と議決権制限株式の組み合わせという構成になっています。

相続財産である株式について、これを議決権株式と議決権制限株式に分け、会社を担っていく後継者には議決権株式を、それ以外の相続人には議決権制限株式を相続させれば円滑な経営権の承継が実現できると考えられます。   

種類株式(社債類似株式)

社債類似株式とは、
(1)配当優先
(2)残余財産分配は発行価額を上限
(3)一定期間後に発行会社が発行価額で償還
(4)無議決権
(5)普通株式等への転換権なし
という5つの要件を満たす株式をいいます。

配当のインセンティブを持たせる代わりに議決権に制限がある点で配当優先の無議決権株式と同様ですが、一定期間後に発行価額で償還されることや、残余財産の分配も発行価額を上限としていること、普通株式への転換がないことなど、社債としての性格が強い特徴を有しています。

配当優先の議決権制限株式と同様、事業を承継させたい者に議決権株式を相続ないし譲渡、第三者割当等により取得させ、社債類似株式をその他の者に取得させることとなります。

社債類似株式は、配当優先無議決権株式に一定期間後に発行価額で償還される条項を付与したものであり、これを既存株主等に取得させることで自益権の優遇を図り、既存株主等の利害をも調整しながら円滑な経営権のコントロールを図ることを可能にするものといえます。

種類株式(拒否権付株式(黄金株))

株主総会において決議すべき事項のうち、この決議のほか、その種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会の決議があることを必要とするものをいいます。

拒否権付株式に定められた事項については、通常の株主総会とは別に、その拒否権付株式をもった株主だけの種類株主総会において決議されなければならないこととなります。

経営者が自社株式の大部分を後継者に譲るけれども不安が残るという場合には拒否権付株式を保有し、後継者の経営に助言を与える余地を残しておくといった方法や、重要な決定事項に関し、後継者の意思に反する決定が下されそうになったときのために、自らが保有する株式を拒否権付株式にしておくといった利用方法が考えられます。

もっとも、経営者と後継者の間で意見の対立が生ずると、どちらの議案も可決できない状態に陥る可能性が生じることや、非常に強力な拒否権で、一般株主を排除することにもつながりかねない権限であることから、東京証券取引所等は、上場企業について、この拒否権付株式を原則導入禁止としている点には注意が必要です。

種類株式(全部取得条項付種類株式)

全部取得条項付種類株式とは、2以上の種類株式を発行する株式会社がそのうちの一種類の株式の全部を株主総会の特別決議によって取得することができる株式をいいます。株主総会の特別決議で取得を決定することができるため、少数株主の売却の意思にかかわらず強制的に買取を行うことが可能となります。

事業承継においては、分散化している株式を集約化するために利用することが考えられます。少数の株式を有する株主について相続等が発生することで株式が細分化され議決権の確保が困難となるような事態に対処することが可能といえます。   

種類株式(取締役・監査役の選任種類株式)

当該種類の株式の種類株主を構成員とする種類株主総会においてのみ取締役又は監査役を選任することを可能とするのがこの取締役・監査役の選任種類株式です。

取締役・監査役の選任種類株式は、公開会社や委員会設置会社は発行することができないため、主に株式譲渡制限会社に対して適用することを前提としていると考えられます。

事業承継の場面においては、後継者に対してすべての普通株式を譲渡したとしても、旧経営者が取締役・監査役の選任種類株式を保持することによって、役員等の選任権のみ掌握することもできます。