事業信託とは

目次

事業信託とは、文字通り「事業」を「信託」することです。

事業というのは、商品や仕掛品、器械などの動産、売掛金や預金などの債権、建物などの不動産、借入や取引上の買掛金などの債務、従業員などの人、というように、様々な権利義務関係が錯綜した有機的一体としての財産です。

事業信託というのは、動産や不動産、債務などの有機的一体としての財産を信託するものです。






図で示すと、次のようになります。

X社は、A事業とB事業があります。
B事業については、不採算であり、優良事業であるA事業の利益をつぎ込まなければ成り立たない状態です。

このままB事業から撤退してもよいのですが、Y社がB事業を行えば、利益が出るノウハウを持っています。
そこで、B事業をY社に対して事業信託し、利益を配当してもらう、という方法が考えられます。

その方がX社としてはメリットがあります。

Y社は、もともとB事業に進出しようとしていましたが、初期投資がかかります。
Y社としては、初期投資なくしてB事業を行うことができ、利益の中から受託報酬を取得できます。Y社としてもメリットがあります。

事業信託はどのように行うのか?

イメージとしては、事業譲渡に似ています。
事業信託も事業譲渡と同じように、何月何日の時点での、どの動産や債権、債務を信託するか、ということを明確にして、契約書に盛り込まなければなりません。
事業譲渡は、通常の売買のように、売ってしまったら終わりです。

しかし、信託の場合には、契約に定めた期間、ずっと続く点が異なります。

そして、場合によっては、信託期間終了時に、事業を第三者に事業譲渡してしまうことも可能です。

その意味で、事業譲渡よりも事業信託の方が自由度はかなり高いと言えるでしょう。

ところで、事業が成功したときのこと考えて、事業信託の場合には、配当をどうするか、Y社の信託報酬は定額なのか、あるいは成功報酬なのか、という点を定めておかなければなりません。

さらには、契約期間を何年間にするか、その期間が経過した後は、どうするのか、を定めておく必要があります。

信託は、内容を自由に設計できる点に特徴がありますので、契約期間が終了した後に、事業をX社に戻すこともできますし、そのままY社に売却することもできます。もちろん、解散して清算させることもできます。

どうするかを契約書に盛り込んでおけばよいのです。

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事業再生における事業信託

では、事業信託は、事業再生の場面では、どのように活用できるのでしょうか。
事業再生が問題となる場面は、通常の支払期限での支払が困難になったり、債務超過に陥ってしまった場面です。

この場合、債権者は、債務者の財産を目当てに債権回収をはかってきます。

債務者に破産されてしまうと、その時点での債務者の全財産をお金にかえて、法律の優先順位に従って債権者に平等に配当がなされることになります。

そして、最終的には、回収不能となってしまった債権を償却処理します。
そこで、債権者としては、債務者が破産するよりも、多額の債権回収がなされるのであれば、その方法にメリットを感じ、同意してくれる可能性がでてきます。
そこに、事業信託活用の余地がでてきます。

通常、債務超過に陥ってしまった企業がより多額の配当を債権者にしようとする場面では、民事再生を申し立てた上で、事業を第三者などに譲渡し、その譲渡代金を債権者に配当するなどの処理を行います。その方が事業譲渡の代金分だけ破産処理よりも債権者に対する配当が多くなるからです。

しかし、その場合、事業譲渡は、その時点での事業を見積もることになりますので、事業を譲り受ける方は、将来リスクなどを考え、なるべく低額で譲り受けようとします。
そのため、事業の譲渡代金も低額になる傾向にあります。

そこで、事業譲渡のかわりに、事業信託を活用して事業再生を行うスキームを考えてみましょう。

(スキーム1)

債務超過に陥ったX社は、自らの事業を、Y社に事業信託します。Y社への信託により受益権が発生し、これをX社が取得します。
X社は、受益権を売却して債権者に配当します。この受益権の内容は、今後Y社が事業を行うので、そこから得られる収益と、信託期間が終了した際に事業を第三者に譲渡し、あるいはY社が買い取ることになるので、その譲渡代金となります。

この将来の見通しにより、受益権の価格が決定されます。
これを図にすると、次のようになります。

事業再生における事業信託(受益権を売却して売却代金を配当)

(スキーム2)

債務超過に陥ったX社は、自らの事業を、Y社に事業信託します。信託により発生した受益権を債権者に配当します。
以後Y社が事業を行った収益は、債権者に配当されます。

さらに、信託期間が終了した場合には、Y社が事業を買い取るか、あるいは第三者に売却することになり、その事業譲渡代金も債権者に配当されます。

Y社が事業に成功すれば、最後の事業譲渡代金は高額になる可能性があります。

事業再生における事業信託(債権者が受益権を取得)