詐害信託とは

使い勝手のよい信託制度ですが、事業再生で事業信託を活用する際に、注意すべき点がいくつかありますので、ここで説明します。

倒産する会社が倒産前に不動産や商品、売掛金などを第三者に譲渡する場合があります。
自分が一生懸命築いた財産を債権者から守ろうという行為なのですが、この場合、債権者は、詐害行為取消権を使って、第三者に譲渡された不動産や商品、売掛金などを取り戻すことができます。

仮に、倒産会社が破産申立をしたときは、破産管財人が「否認権の行使」として、債権者にかわって譲渡された財産を取り戻します。

したがって、このような詐害行為になってしまう場合には、せっかく財産を第三者に譲渡したとしても、無意味になってしまうので注意が必要です。

ところで、信託には、倒産隔離機能があり、それが信託の魅力でもあります。
信託を設定すると、信託財産が、委託者の財産から隔離されてしまいます。

そうなると、委託者の債権者は、信託財産を差し押さえることができなくなるのです。
これが、信託の倒産隔離機能です。

委託者が倒産しても財産が隔離されている、という意味です。
もちろん、委託者が受益者でもあれば、受益権を差し押さえることはできます。

しかし、受益者が第三者の場合には、委託者の債権者は、信託財産を差し押さえることもできませんし、受益権も差し押さえることができなくなってしまい、不当な差押え逃れを許してしまうことになります。

先ほど説明した民法上の「詐害行為取消権」は、信託の場合には使えないです。

そして、また信託を設定した後に委託者が破産しても、信託を設定した信託財産は、破産財団にも組み込まれませんので、その財産は守られることになります。
このことは、裏を返せば、債権者の権利が害されることになるのです。

ここまで書くと、倒産しそうな場合には、信託さえしておけば財産を全て守れそうな気がしてきます。

しかし、実はそれほどうまくいかないようになっています。

信託法を作るときに、銀行側からは詐害行為に対する警戒をするように厳しい意見が出ていたのです。

そこで、信託法では、信託の設定が債権者の権利を害するような場合には、一定の要件のもとに信託の設定を取り消すことができる旨を定めています。

また、同じく一定の要件を満たす場合には、委託者が破産・民事再生・会社更生などが開始されたときには、破産管財人等は、信託の設定を否認して、破産財団等に組み入れることができる旨定められています。

これらが「詐害信託」です。

せっかく築き上げた財産を防衛するために信託を設定しても、後で債権者から詐害信託として信託を取り消されてしまっては元も子もありません。
信託を設定する際には、詐害信託にならないよう注意が必要です。

では、どのような場合に詐害信託となり、信託の設定を取り消されてしまうのかを説明します。図に書いて説明します。

右の図で、まず大前提になるのは、次の要件です。

詐害信託の要件その1

委託者(債務者)が、「債権者を害することを知って信託を設定したこと」

「債権者を害する」というのは、その財産が流出することによって、債権者に弁済ができなくなることを言います。
したがって、その財産が流出しても、他に十分財産があって、その時点での債務全額を弁済できるような場合には、「債権者を害する」ことにはなりません。

債務超過に陥った会社が、自らの事業の全てを第三者に信託し、その結果、債務の弁済ができなくなるような場合には、「債権者を害する」ことになります。この「債権者を害する」ことを「詐害性」の要件と言います。

ところで、詐害信託になるためには、詐害性の要件だけでは不十分です。
なぜなら、委託者が詐害の意思を持っていたとしても、何も知らずに受益権を取得した者が、その信託を取り消され、受益権がなくなってしまうとすると、受益者の地位を不当に害することになるからです。

たとえば、X社が、不採算事業をY社に事業信託し、その配当受益権を第三者に譲渡して譲渡代金を債権者に分配していた場合、事情を知らずに受益権を譲り受けた第三者にいるのに、この受益権売買が詐害信託として取り消されたりすると、誰も受益権を買ってくれなくなってしまいます。

そこで、信託法では、善意の受益者を保護するために、詐害信託が成立するためには、次の要件が必要と定めています。

詐害信託の要件その2

受益者または受益権を取得した者が、受益者としての指定を受けたことを知った時または受益権を譲り受けた時に、債権者を害することを知っていたこと。

この要件があることにより、受益者は、自分が受益者になる段階で詐害であることを知らなければ、たとえ後で知ったとしても、その権利が守られることになります。つまり、「善意の第三者」は保護されるのです。

ところで、受益者が複数いる場合はどうなるでしょうか。

この場合には、受益者全員について、債権者を害することを知っていたことが必要であるとされています。

したがって、受益者が2人おり、1人は債務超過であることを知っていても、もう1人が知らなければ、詐害信託として取り消されることはありません。

ただし、そうであるからといって、わざと事情を知らない人を受益者として加えて、要件を免れようとすることはできません。

なぜなら、次の要件があるからです。

詐害信託の要件その3

受益者の指定または受益権の譲渡にあたっては、上記(2)の適用を不当に免れる目的で、詐害性の事情を知らない者を「無償」で受益者に指定し、または無償で受益権を譲渡してはいけません。

また、わずかばかりの有償は「無償」と同視されます。

このような行為をした場合には、上記(2)の要件が不要となり、詐害信託として、取り消されることになります。注意が必要です。

なお、詐害信託においては、受託者の善意悪意は問いません。

詐害信託にならないために

詐害信託の要件をまとめてみましょう。次のとおりです。

(1)委託者(債務者)が、「債権者を害することを知って信託を設定したこと」。
(2)受益者または受益権を取得した者が、受益者としての指定を受けたことを知った時または受益権を譲り受けた時に、債権者を害することを知っていたこと。
(3)受益者の指定または受益権の譲渡にあたっては、上記(2)の適用を不当に免れる目的で、詐害性の事情を知らない者を「無償」で受益者に指定し、または無償で受益権を譲渡した場合は、(2)の要件が排除されます。また、わずかばかりの有償は「無償」と同視されます。

このように、詐害信託になるかどうか、については、複雑な法律要件があり、これは素人の判断では難しい面があります。

したがって、事業再生に事業信託を活用する際には、事業譲渡、会社分割の場合と同様に、必ず法律専門家に確認することが必要です。